初日となる4月4日(金)に都内劇場で秋葉茂役の豊川悦司さん、少女時代の藤井樹役の酒井美紀さん、岩井俊二監督を迎え、公開30周年記念『Love Letter 4Kリマスター』公開初日舞台挨を実施しました。
今だから話せる当時の撮影秘話や、時を超えてなお色褪せない本作の魅力を語りつくしました。
岩井監督は「去年の年末に中山美穂さんが天国に行ってしまったのですが、あまりに急で本当にもう衝撃でした。いまだにちょっと受け止め切れていない感じがあります。その後、4Kリマスターを上映しようという動きが活発化し、今日をようやく迎えることができました。不意に改めてこの映画と向き合ってリマスター作業をさせて頂き、映像を直視するのが何とも苦しいところもあったのですが、美穂ちゃんに喜んでほしくて頑張って今日に間に合わせました」と中山美穂さんを偲びながら挨拶。豊川さんも「美穂ちゃんがいなくてとても残念な気持ちです。僕の中でこの映画は美穂ちゃんの映画なので、今日はたくさんの人に美穂ちゃんを観て頂いて少し気が楽になった想いです」と胸中を明かしました。酒井さんは「中山美穂さんに憧れてこの芸能界に入りたい。女優になりたいっていう思いで、いっぱいだった頃でした。その私のデビュー作だったんです。記念すべきデビュー作に憧れの中山美穂さんと一緒に、同じ役で出られたことがすごく光栄でした」と当時を思い返しました。
撮影当時を振り返り監督は「正直、これで失敗すると映画の仕事は来ないなというプレッシャーは感じていて、なんとかしくじらないように、ちゃんとやんなきゃという感じでした。そんなことを思いながら小樽の夜に飲まされすぎて翌朝動けず、夕方まで二日酔いのまま、当時の助監督だった行定監督に代わりにやってもらった日もあったりしました。その後、日本をはじめ中国・韓国やアジアの方々を中心に多くの方に映画を愛していただき、アジアの方々の友達もたくさんできたし、映画祭にも呼んでいただいたりと交流が続いています。今年30周年ということで何かやりたいなと思っていました。去年の11月くらいに美穂ちゃんに連絡を取って、一緒に小樽を巡ったりなど考えていました。美穂ちゃんも今年がデビュー40周年ということでしたので、何か一緒にやれたら良いよねという話をしている矢先の出来事だったんです。本当に残念なのですが、でもこうやって支えられながら30年経ってもまたスクリーンに蘇ったりできる、不思議な魔法にかかったような、本当にすごい作品だったんだなと改めて感じています」と話しました。
豊川さんは当時を振り返り「この作品は岩井監督と3本目、最初はテレビの「世にも奇妙な物語」での短編の1本の「ルナティックラブ」でした。多分撮影期間が4日だったのですが、4日間徹夜してやっと間に合った作品でした。その後山口智子さんと『undo』という16mmで撮った短編がありました。これも本当にたくさんの方に観ていただいたのですが、これは撮影期間が1週間ありまして、1週間ほぼ徹夜してやっと間に合いました。その次がこの『Love Letter』なのですが、多分2ヶ月ぐらいあったんですかね。2ヶ月間、スタッフキャストほとんど寝ずにやっと間に合った。岩井組っていうのは本当に他の現場にはないとても個性的な現場だと感じています。こうやってたくさんの方に観ていただき、評価も受け1人歩きしてくれて、いろんな国に自分から出かけていって、いろんな人にちゃんと自分を見てもらえること自体が本当に映画が持つ素晴らしい一面であると思います。作ったのは僕らなのですが、本当に『Love Letter』という映画がちゃんと1人で育ってくれて歩いて行って、いろんな人と出会ってくれているんだなという風に思います」と、岩井監督との思い出も織り交ぜながら当時の過酷な現場を思い返し笑いを誘いました。
続けて酒井さんは「今日もこの舞台挨拶の回をご覧いただくためにたくさん応募があったと聞いています。それだけたくさんの方にこの作品を愛してもらえてるというのは本当に嬉しいと思っています。今もいろんな国で上映されていますが、私が海外に行った時でもすごく声かけてくださったりするんです。海外に行く飛行機の中やいろんなところで『Love Letter』風に「お元気ですか?」と言ってくださったり、そういう経験が30年間でありましたので、また再びこうやって日本でたくさんの方に観ていただけるのはとても嬉しいです」と今でも熱が冷めない人気を肌で感じていることを明かしました。
豊川さんにロケ地の思い出を聞くと「自分の出番は後半戦でした。合流したらほとんどのスタッフが死んでいるんですよ。行定さんに聞いたら「これ、終わんないかも」って言うんです。雪が必要なシーンで、降雪機もあったのですが、ちゃんと待っていたら雪が降ってきて。12時間待っていると雪って降ってくるんですよ。なんかこの映画ってちょっと神がかっているようなこともあったりして。美穂ちゃんとはガラス工房のシーンが初めましてだったのですが、美穂ちゃんがその時「お待ちしていました」と言ってくださって、普通の人じゃ思いつかないような気遣いのできる繊細なハートの持ち主。12時間待っているときも三言くらい交わしたかなというくらい。でも彼女は本当にこの作品を愛していてそれが一緒にいて伝わってくる。彼女に現場を楽しむ余裕があったのかわからないですが、世界観が彼女にすごくはまったんじゃないかなと思います。実際にこの作品は彼女の代表作だと思うし、この作品以前、以降では仕事に対する考え方が変わったのかなと思います」と話しました。
監督に中山さんを起用した際のことを聞くと「美穂ちゃんから「私あんまり映画好きじゃない」と言われまして…。これお断りなんだろうか…?とも思いました。どなたかが岩井監督の作品を見ましたか?と聞いてもマネージャーがまだ渡してません!と取り繕っていて、渡していたのですが。ま、僕も映画初めてだし、もしよかったら一緒に映画つくって終わったころに映画好きになっていきましょうと話した記憶があります」と微笑ましいいエピソードを明かしました。
お三方から締めの言葉を頂くと、酒井さんは「私にとっての原点でもあります。大切な宝物の作品です。一度見た方もスクリーンで見ていない方も劇場でぜひご覧ください」、豊川さんは「初めて見る人には中山美穂という女優がいかに素晴らしいかをしっかり見届けて頂けたらと思います。この映画が皆さんの中で宝物のように育ってくれればいいなと思っています」とし、最後に監督が「美穂ちゃんは亡くなりましたが、この30年の間、生前にお互いに”あっちで上映している”、”またファンの方々からメッセージ頂いた”というやり取りが続いていました。本当に不思議な体験をさせてもらった作品です。何かこの縁はまだまだ続く気がしています。きっとまだ細い糸が天国の美穂ちゃんと僕らを繋いでくれている気がします。なにか魔法を感じて持ち帰って頂けたら、ちょっと明日いいことがあるんじゃないかなと思います。ありがとうございました」と締めくくり、舞台挨拶は温かい雰囲気の中で幕を閉じました。